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三橋節子の作品と人生②(Rev.1.20) [三橋節子]

前回の記事の初稿からかなり時間を経過しております。
したがって内容に矛盾があるかもしれませんがご容赦ください。


e0039410_025490.jpg

三橋節子さんの人生と作品については梅原猛さんが「湖の伝説」
という大著を記されており、私もこの本を読んでから大津長等の
三橋節子美術館を訪ねました。
湖の伝説を読んでおいて良かったと思う一方で後悔もしました。
絵や音楽は、それに接する人の解釈する自由が束縛されてはなら
ないと思うんですね。
美術館を訪ねた時、頭のどこかで梅原さんの文章が、それが名文
であるが故にかえって私の解釈を支配してしまい、その点が残念
だったのです。
まるで己の感受性の低さを梅原さんに八つ当たりしているようで
恥ずかしいのですが。
梅原猛さん、お父上の三橋時雄さん、夫だった鈴木靖将さんの奔
走なくしては三橋節子という画家の作品をまとまった形で見るこ
とは困難であったろうことは間違いがなく、関係者の奔走には感
謝しております。
しかし、なお一鑑賞者として素直でありたいが故に、敢えて「湖
の伝説」を参照、再読せず綴りたいと思います。
美術論など全く学んだことはありません。
拙いですが書いてみたいと思います。
あかね芹s.jpg
(画像は全て低解像度です)

作風の変遷
私は彼女の作品は以下の転機があったように思います。
・雑草を描いた時代
・インド東南アジア研修旅行
・長男くさまお氏誕生後
・腫瘍切除手術
・最晩年(2度目の手術後)

母子像s.jpg
私が惹かれる点
雑草画家
 誰からも見向きもされないような、ただ刈られるばかりの雑草
 を彼女は愛し、終生描き続けています。
 より大きなもの、荘厳なものを求めがちな私にとっては、彼女
 の視点は「異見」であり、オーバーですが「ひょっとして西方浄
 土」さえ見えていたのではないかとさえちょっと考えています。
 彼女はクリスチャンでしたけれど。
無垢な愛
 後に挙げる「余呉の天女」の他にもうひとつ彼女の作品を挙げ
 るなら、私は「母子像」を挙げます。
 彼女は晩年、死や昇天にまつわる作品を多く描いたのですが、
 死の3ヶ月前に描かれたこの作品は「不滅のもの」を描いている
 ように思うのです。
湖のような静寂
img10402293638.jpg

 彼女の作品には音がないような気がします。
 異国の雑踏の中にある人物の視線は永遠の静寂を見つめてい
 るような感じがします。
 特にくさまおさん、なずなさんを描いた作品は、そこにある親子
 の魂の繋がりを描いているような感じがします。
 琵琶湖を見ていると海のような広さがあるにもかかわらず、海
 には当然あるはずの波立ちが感じられません。
 琵琶湖の風景と彼女の作品には何か相関関係があるのでは
 ないかと思うのです。
 穿ち過ぎでしょうか?
死生観
 後に記します。

ハンディについて
 彼女は昭和48年1月に腫瘍切除のため利き腕である右腕を
 切断します。
 夫、靖将さんの励ましもあり、手術後すぐリハビリを開始、
 3ヵ月後には最初から左利きだったと思われるほどにまで
 回復します。
 ハンディを克服して絵筆をとって、彼女の最高傑作は全て
 術後に描かれた、だからスゴイ、というのは少し違う気が
 します。
 彼女が病に見舞われるたことで起こった心の変化はどの
 ようなものだったのだろうと思うのです。

幸福の絶頂と腫瘍の発覚
 長男くさまおさん、長女なずなさんを授かり家族4人となった
 昭和47年、彼女はこんなことをつぶやいています。
 「こんなにしていていいのやろか。
 描きたい絵を描いて、好きな人と一緒にいて、
 しかもご飯が食べれる。
 こんなに幸福で本当にいいのやろか、
 何か、すまないような気がする」と。
 この頃の彼女の写真を見ると本当に美しい。
  三橋節子s.jpg
 幸せの絶頂から一転48年1月に腫瘍が見つかり手術。
 術後の3月にはリハビリを兼ねて制作を再会し、彼女の
 最高傑作といわれる作品は全て右腕を失った後に描か
 れたものでした。

従容
 現実としての彼女は左肺への腫瘍転移を手術、当時高価
 だった丸山ワクチンを投与し、病と徹底抗戦しているのですが、
 彼女の作品を見ていると、死を避けがたい宿命と捉えていたよ
 うに感じられるのです。
 誰にでもやってくる死を怖れる、というより死をも抱擁してしまう
 と言うのでしょうか。
 激しく攻めたてる病も治療の苦痛も従容として受け入れ、死を
 も受け容れる、どころか迫りくる死をも生命の輝きに代えてしま
 うような感じ。
 だから彼女が描く死はちっとも怖いものではないのです。
 むしろなんだか訳が分からない涙と希望を感じます。

余呉の天女2.jpg
「余呉の天女」(絶筆)
 最高傑作と言われる「三井の晩鐘」「花折峠」以上に私が惹
 かれる作品が絶筆となった「余呉の天女」です。
 天女は長い髪をなびかせて、暗い湖の空へ今にも消えようと
 しています。微笑を浮かべながら。
 背景の山々は最後の旅行となった余呉からの眺め。
 赤い服を着た子供が天女を見送っています。
 子供は地上と空(この世とあの世)の前にただ坐すほか術なく
 泣いているのでしょうか?。
 この作品の天女は三橋節子、その人だと思います。
 そして子供は、彼女が愛し、彼女を愛した人々、くさまおさん、
 なずなさんはもちろん、彼女の父母、妹、夫の象徴が、
 あの子供なのではないかと。

 彼女の死の1ヶ月前に描かれたこの作品のとおり、彼女は夜
 の暗闇の中、家族ひとりひとりに「ありがとう」と伝えた後、眠
 り、翌朝を迎えることはありませんでした。

「諦観」という救い
 腫瘍発覚後の最初の手術を受けた時、既に彼女は死を諦観
 として受け容れる気持ちになっていたような気がします。
 翌年転移が発覚、手術が芳しくない(父時雄さんの言葉を
 借りれば、絶望的)結果に終わった後に描かれた「羽衣伝説」
 の天女はむしろ柔らかな明るい表情をしています。
 望みの薄い大海の藁のような「不確実な生」に依り頼むより、
 ようやく「確実な死」を諦観として受け容れられるか、との安堵
 のようなものを私は感じるのです。
 「諦める」とは「なるようになれ」と投げやりになるのではなく、
 残された可能性を探る生き方で、それが彼女の場合、愛する
 者へ不滅の愛の証を残す事、描くことだったのだと私には思え
 るのです。

作品と絵本「雷の落ちない村」
kaminari_no_ochinai_mura.jpg

 私は、作品は彼女の心象を強く反映し、絵本「雷の落ちない村」は
 母の愛がたっぷり込められた絵のような気がします。
 昨年、小学館から「雷の落ちない村」が新装再販されるようになり
 ました。是非手にして欲しいな、と思う絵本です。

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コメント 30

hobbit@elf-book/com

こんにちは。
新版は色があざやかになったと思いました。最近印刷技術の向上で原画の色にちかくなって出版される本があります。残念ながら私は原画をみていないので違うかもしれませんが、色だけでなく子どもの表情が力強く表現されているように伝わってきますが。
 音がない、というより感じられない同感です。
 クリスチャンということは良く解りません。どちらかというと仏教的表現に感じられるのですが。梅原さんもそうおもわれているのでしょうか。


by hobbit@elf-book/com (2008-08-15 17:05) 

binten

hobbit@elf-book/comさん

コメントありがとうございます。
サンブライト版画集(梅原猛責任編集)を持っています。
当時としては印刷技術の粋を集めたものだとは思うのですが、今から見ると粒子が粗く、どうしても原画を見たくなってしまいます。

ただ、彼女の晩年の作品になるほどキャンバスに筆を重ねられており、ひとつの作品を描きあげるのに様々な思いが一点に昇華していったのではないかと思うのです。

やはり原画を見てみたい。

年3回展示作品を入替されているそうで、私が長等を訪ねた時には一番見たかった「余呉の天女」の原画展示はありませんでした。

三橋さんはインド・東南アジア旅行後、人物画もすばらしくなってきているのですが、くさまおさん、なずなさんが誕生されて彼らをモデルにした作品は、作品に引き込まれてしまうような力を感じます。

「愛」と言いますが、母の愛は傍目には凄まじささえあるものかもしれません。

クリスチャン、仏教的、というところは、実は私にはまだよく分かっていません。
梅原さんは別の著書(「日本の深層」だったと思います。)で、最初戒律だなんだと小うるさかった仏教が時代が降るごとに、仏教以前の来世観に染まっていったと記されていて「なるほど確かにそうだ」と知の部分では理解しているのですが・・・。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-15 19:55) 

quartier

三橋節子さんの絵を見たことがなかったので、見せていただき、いっぺんに好きになりました。
by quartier (2008-08-19 11:50) 

binten

quartierさん

コメントありがとうございます。

私は最初三橋さんの絵を見てぎょっとしました。
ぎょっとして、でも目が離せない絵でした。
「なんなんだこの絵は」という事で私の三橋節子探求が始まりました。
絵を鑑賞することを教えてくれた初めての御方でした。

時々三橋さんを思い出して画集を引っ張り出して絵を眺めたり考えたりしています。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-19 19:07) 

tonta

こんばんは

本日はnice!&訪問ありがとうございました(^-^)


by tonta (2008-08-19 19:27) 

binten

tontaさん

いえいえ、こちらこそありがとうございます。
by binten (2008-08-19 19:30) 

たいちさん

初めまして、訪れいただき有難うございます。
今後とも宜しくお願いします。
by たいちさん (2008-08-19 21:25) 

coco030705

はじめまして。ご訪問ありがとうございました。
三橋節子さんの絵、いい絵ですね。
私は、草花の絵が好きです。こんな名もない花にも
愛情深い目を向けることができた三橋さんは、本当に
素敵な女性ですね。
by coco030705 (2008-08-19 21:54) 

KAZUYA

はじめまして

御訪問&nice! ありがとうございました

三橋節子さんについてここではじめて
詳しく知りました!

絵本も気になったので今度書店に行っ
た時にチェックしたいと思います(^-^)
by KAZUYA (2008-08-19 23:37) 

Pace

ご訪問とnice!ありがとうございました。
三橋節子さん、はじめて知りました。絵にも惹かれますが、そのお人柄に心打たれました。「・・こんなに幸福で本当にいいのやろか、何か、すまないような気がする」というつぶやきにはっとしました。

by Pace (2008-08-19 23:38) 

Fuji-mon

先日は、nice!をいただき、
また、ご訪問ありがとうございました。

時々、寄せていただきますので、
よろしくお願いいたします。
by Fuji-mon (2008-08-19 23:41) 

カオル

こんばんは。ご訪問ありがとうございました。
三橋節子さんのことは知らなかったので、勉強になりました。
by カオル (2008-08-20 00:28) 

binten

たいちさん

コメント&NICEありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 05:08) 

binten

coco030705さん

コメント&NICEありがとうございます。
私のアートとの出会いのきっかけは
自分とは違う感性なんだが、ひどく惹きつけられるというものでした。

彼女の絵から、どこにでもある何気ないものに目を向けてみることを知りました。

ありがとうございました。

by binten (2008-08-20 05:16) 

binten

KAZUYAさん

コメント&NICEありがとうございます。
私は古い画集は持っているのですが、凝視するとどうしても粒子の粗さが目立ち、絵本とはいえ新装再販うれしく思っています。
できれば画集も新装されないかなと思うこのごろです。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 05:23) 

binten

Fuji-monさん

ご来訪、NICEありがとうございます。
はい、ありがとうございます。
ちょいちょいよってくださいませ。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 05:32) 

binten

カオルさん

コメント&ナイスありがとうございます。
読んでいただきうれしいです。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 05:49) 

katsura

先日はご訪問、ありがとうございました。
三橋さんのお名前は知らず、はじめてです。じかに絵をじっくり観たいですね。いつか美術館に行って見たいですね。
by katsura (2008-08-20 08:03) 

masugi

一枚目の絵を見たとたん、ぐっと引き寄せられて
しまいました。すごい力を持った画家さんだったの
ですね。
by masugi (2008-08-20 14:50) 

江戸うっどスキー

ご訪問頂き、ありがとうございました。
「湖のような静寂」はゴーギャンっぽくもありますね。個性的で惹かれるものがあります。美術館にいって見たいです。

by 江戸うっどスキー (2008-08-20 22:29) 

binten

katsuraさん
ご来訪&niceありがとうございます。
もし滋賀、お訪ねの機会があれば行ってみてください。
私も再訪して琵琶湖北東の余呉や長浜を訪ねてみたいなと思っています。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 23:45) 

binten

masugiさん

ご来訪&niceありがとうございます。
美しいものを求めて遠いところ、高いところへ行きたがっている私がいるのですが、美しいものはそこにもここにもあるんだなと思いました。
三橋さんも若い頃は山に魅了されて兄弟を連れて山へ行ったり師匠の秋野不矩さんと共にインド東南アジアを訪ねられたりしてるのですが、結婚後はむしろ徒歩圏内を画材にされています。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-20 23:52) 

binten

江戸うっどスキーさん

ご来訪&niceありがとうございます。
もし京都か滋賀にお運びの機会があればお訪ねください。
京都駅乗換え湖西線で10分くらいだったと思います。
私も次回は紅葉の季節に行きたいなと考えています。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-21 00:07) 

Chiro

こんにちは、私も初めて三橋さんの作品を見ました。
悲しげなのに、どこか優しさ、暖かさがありますね。
三橋さんの優しさなんでしょうね。
ブログを通して知ることがいっぱいで嬉しいです♪
ありがとうございます。
by Chiro (2008-08-22 00:12) 

binten

chiroさん

ご来訪&nice&コメントありがとうございます。
三橋さんはウソがつけない画家さんだったのかなーと思うのです。
初期の人物画は顔が描いてなかったりします。
インド東南アジア旅行に出てから少しづつ表情つきの人物画を描き始めるのですが、長男誕生後の作品はなんともいえない表情を描き始めます。

世界で名画と讃えられる作品を見るのもいいのですが、心動かされる絵は必ずしも世間的な評価とは一致しないんだろうなと思うこの頃です。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-22 00:52) 

ofil425

>こんなに幸福で本当にいいのやろか、
 何か、すまないような気がする」と。

三橋節子さんは、あまりにも幸せ過ぎて不安がよぎってしまったのだと思うのですが、不安になると何かが起きるような感じがあります。
自分は幸せに値するのだと思ってただ感謝していたほうがよいのかもしれません。
幸せに縁のない私などが口挟むことではないのですが。
by ofil425 (2008-08-24 15:25) 

binten

ofil425さん

ご来訪&nice&コメントありがとうございます。
う~ん、幸せって何でしょうね?。
ただ、お子様が誕生されてからの作品は、ご本人のお言葉どおり幸せだったんだろうな、と思わせられます。

ありがとうございました。
by binten (2008-08-24 19:57) 

雪っ娘

はじめまして、私は高校生のときに「湖の伝説」を舞台演出したことがあります。そのときは演劇の大会でしたが舞台脚本を書いた先生にも演出してもらい沢山のお話をききました。画集もそのときに学校で購入し見た記憶があり懐かしく拝見しました。
また、舞台で使う三橋先生の絵を模写したことを覚えています。何の知識も無い私たちは当時美大に通う親戚に日本画の基本を習い胡粉を買い必死で日本画の模写をしたのも
20年以上前の懐かしい思い出です。
今になってこの絵を拝見できたことをとても嬉しく思います。そしていつか三井寺の鐘を実際に見てみたいとおもいます
by 雪っ娘 (2009-06-07 02:49) 

binten

雪っ娘さま

コメントありがとうございます。
わたしが美術館を訪ねた日は前日の土砂降りが大気を浄化
して、真っ青な空がまぶしく、懐かしい思い出です。
本当に暑い日でした。

大津は京都からJR快速で2駅目、10分程度の行程です。
京都をお訪ねの機会がありましたら是非お運びください
ませ。

「余呉の天女」の原画を見そびれてしまいました。
再訪を心に決めてはや3年・・・。絶句。
by binten (2009-06-25 02:26) 

ぼん


始めまして、50数年くらい前でしたでしょうか、梅原さんの「湖の伝説」を読み、三橋節子さんの作品にふれ、余呉このことなどが深く心に刻まれました。
今春なんとなく50年ぶりに三橋さんが描いた余呉湖に惹かれ訪れました。

妻に10年前先立たれ、今までに経験したことがない哀切の気持ちを感じ、改めてわが子を残して先立つ母の苦悩、ご主人の寂しさ、悲しみを体感することとなり、三橋節子さんの絵の深い悲しみを感じることができました。

ネットで大津市に美術館があることを知り、初めてじっくりと三橋さんの作品に触れることができました。
又ここのブログと偶然出会い、僕の感想をチョッとだけ聞いていただきたく寄せていただきました。

丁寧な解説とご感想を読ませていただき,感動を新たにしております。 有難うございました。


by ぼん (2010-09-21 10:33) 

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